
櫻井朝子『夜明け前、一番星を見つけて』
1冊のZINEを読みました。
最近よくZINEという言葉を聞くなぁと思っていたところに、「これは!」というものがXで流れてきて、その場でポチりました。
荒川区を中心に活動している、ちょっとおせっかいな本屋「KAZENONE BOOK」の店主、櫻井朝子さん初制作のZINE『夜明け前、一番星を見つけて』です。
間借り本屋の活動をスタートさせた活動の記録。そこに至るまでの苦悩や背景、そして「ちょっとおせっかいな間借り本屋」という一番星を見つけるまでと、これからのこと。
「かつて、何者でもなかったあの頃の自分」に届くように書きました。
とても個人的で、ユニークで再現性に欠けているこの話は、私にしか通用しないことばかりかもしれません。
それでもそんな記録を読んでいただくなかで、同じように悩み、一番星を見つけたいと思っている誰かの心に小さな炎を灯すことができたら。
そんなことを考えながら1冊の本にしました。
6年という年月
朝子さんとは6年前、一田憲子さんのライター塾の同期生として出会いました。
丸2日間、一田さんのご自宅で6人がパソコンを持ち寄って、ひたすら書く、添削してもらう、の濃密な2日間。
私のライター人生でも、それはそれは大きな転機となった2日間です。
6年前!!びっくりします。
当時朝子さんは、勤めていた会社を辞めて「これからどうしようかな」という時期だったように思います。
のんびり話す笑顔のかわいい女性で、朝子さんが笑うと、周りの空気までふわった緩む、(お名前の影響もあるかもしれませんが)朝の風、とか、春の風、とか、そんなイメージのある方でした。
ライター塾を終えたのちは、どういう流れだったのかTwitterだけ繋がっていて、「お子さん生まれたんだ!」とか「わー移動本屋さんはじめたんだ!」とか、トピックだけは知っている、という間柄でした。
「はじめに」に、「一番星を見つけるまでの六年の迷いの記録」という言葉があったのですが、あの6年前から、朝子さんは迷って、動いて、KAZENONE BOOKという一番星を見つけたのか……と思うと、時の積み重ねの重みを感じます。
風を感じる人、そして文章
今回、このZINEが発売されて「読みたい!」と思ったのは、ライター塾で朝子さんが書いていた文章が、とても魅力的だった記憶があった、というのもひとつの理由です。
一田さんも、彼女の書く文章を「自由」「のびやか」と褒めていらしたように思います。
「上手い文章」を追い求めて、テクニックとか見た目のきれいさばかりを追求していた私とは正反対で、朝子さんの内面から自然に紡ぎ出される、いい意味で子どもが書く文章のような楽しさ、わくわくが感じられるものでした。
それこそ、朝子さんという人物に感じた爽やかな風、のような文章でした。
いいなぁ……こういう文章が書ける人って。
そんな嫉妬に近い感情を感じたことを覚えています。
嫉妬って、こうなりたい、の裏返しなんですよね。
私は朝子さんの書く文章に憧れていました。
そんな朝子さんの濃密な6年間の記録
このZINEを読み終わったあと、私は6年前に朝子さんを見て感じた、爽やかな風を感じていました。
会社を辞めてから、自分がやりたいことを探して、その途中で偶然出合ったり、意図的に出合いに行ったりしたパズルのピースを集めていく様子は冒険物語のようで、読んでいて純粋にワクワクします。
その様子を綴る文章がまた、朝子さんらしいから、読んでいて幸せな気持ちになるんです。
小さいお子さんがいる時期に、新しく本屋さんを始めるだなんて……想像しただけでめちゃくちゃ大変だけれど、その時期だったから幸せが倍増したこともきっとあっただろうし、彼女だったら、その大変さを意味あることに変えていけるんだろうなぁ。
朝子さんにここぞというときに素敵な言葉を渡す夫さんの頼もしさとか、朝子さんが暮らす尾久というエリアのいい感じとか、ZINE全体から幸せオーラが漂ってくるんですよね。
それは、こだわって作られたことが一目で伝わってくる、本の装丁の影響もあるのだろうな。素朴で、あたたかく、それでいて計算されている。
「KAMZENONE BOOK」の名前の由来も書かれていて、私が朝子さんに抱いていたイメージにぴったりすぎて驚いたし、「ちょっとおせっかいな本屋」という肩書きも秀逸すぎる。
やはり、言葉の感度がすばらしい方なんだろうなぁと思います。
このZINEを読んで、今年のやりたいことリストに、朝子さんに会いに行く、というのが加わりました。朝子さんが選んだ本も読んでみたい。
自分のここ6年のことも振り返るきっかけになったし、これからどうやって私の一番星を見つけにいこうかなぁとも考えました。
再現性はないかもしれないけれど、読んだ人に勇気をくれるZINEでした。
とってもいい読書体験ができました。
*『夜明け前、一番星を見つけて』商品購入ページ
https://kazenonebook.base.shop/items/97682137
*「KAMZENONE BOOK」ホームページ
https://kazenonebook.base.shop/