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『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』谷川嘉浩著

荒木博行さんのVoicyで著者の哲学者、谷川さんとの対談を聞いて、GW中に電子書籍で読みました。
いいタイトルだなぁ、読みたくなるなぁ、が最初の印象。
私が、人生のレールを外れるような衝動に憧れを抱いているからかもしれません。

「衝動」には人生を変えるほどの力があるけれども、それに気づくことはなかなか難しい。
この本では、子どものころ、大人から聞かれて何となくいい感じで答える「将来の夢」や、世間から認められたいとか、たまたま自分がそのときいちばんいい状態だと思っているものを、人生や当面の「目標」にしてしまいがちだけれども、それでいいんだっけ?という問いかけから、いろんな事例を元に考察していきます。

私が主にライターの仕事をする中で出会う方で、すてきだなぁ!いいなぁ!と思うのは、お腹の底から湧き出るような「好き」を仕事にしている方。
つい先日も、ファッションが好きで好きで仕方ない方や、どうやって目の前のスイーツのかわいらしさを写真におさめようか、とされている方とお会いして、ため息がでるようないいなぁ!を感じたところでした。

谷川さんが言う「衝動」は「偏愛」ともつながるもので「自分ではもうコントロールしきれないくらいの情熱」「え?なんでそんなことを、そんな熱量で?」というもの。
これをどうやって見つけ、どう生活に実装していくか?-私が「いいなぁ!」と思う方を解き明かしていくようで、すごく興味深いテーマでした。

もうひとつ、このテーマに興味を持ったのは、希望していた高校に入学して1カ月の娘が、さっそく学校で「できるだけ進路を早く決めなさい」と言われ、自分の興味とか好きなものに向かい合おうとしているのですが、「私、なんにも好きじゃない」と呆然としてしまっているからです。

学校では、「進路適性検査」なるものが行われ、日々進路を考える手引書のようなものを手渡されているようです。

自分たちの頃よりも随分と先のことを考えるのを迫られるのが早いなぁ、と感じます。
得意教科とか、偏差値だけで「行ける大学」を探すよりずっといいと思いますが……
この「どんな職業につきたい」とか、まだほんの狭い世界しか知らない高1の「何が好き?」から進路を絞り込んでいくって、危険もはらんでいるなぁと思います。
真面目な子ほど、自分が決めた進路に従うために、小さな「衝動」のかけらを見て見ぬふりをしてしまいそうです。

娘と話していると、高校で授業を受けていても、特に面白いと思う教科はない、と言います。
「進路適性調査」で、100問くらい、例えば「地球環境に興味がある」「法律に興味がある」みたいなのを見ても全然「すごく当てはまる」がない。唯一「すごく当てはまる」にしたのは「ろくろを回して陶芸をするのが好きだ」みたいなの(!)。人生でたぶん1~2回旅行先でやったことしかないけれど。

今のところ自覚している自分の性格は「黙々と作業するのが苦にならない」というところだそうで。
「工場の作業とか向いているのかなぁ?3カ月くらいで飽きそうな気もするけれど」
だそう。

そのときは私もうまく答えられなかったのですが、改めて思うと、「黙々と作業するのが苦にならない」というのは、「衝動」を受け入れる自分の性格というか…それ自体が衝動ではないんですよね。きっと。
今書道の授業で黙々と隷書?を書いているのが楽しいらしく、でも聞くと、書道に心躍るというよりは、その「淡々と」具合が好ましい、ということのよう。
ひたすらExcelに文字を打ち込むのでも同様に感じるのかもしれないですね。

よく、小さい頃から誰に言われるでもなくずっとやっていたことに「好き」のヒントがある、と言いますが、娘の小さい頃を振り返っても、あんまりそれが思い出されないのです。
ダンスや卓球、アイドルやメイク…その時々の「好き」はありますが……なかなか「衝動」や「偏愛」につながるようなヒントを探るのが難しい。
息子がドミノやピタゴラや迷路やボルダリングなど、その時々で熱中してきたもののインパクトが強いから、私も見逃しているのかしら。

明らかな「衝動」が自覚できず、外からも分かりにくい娘のようなタイプにも、「どうすれば衝動が自己に取り憑くのか」という章が用意されていました。
「自分の内側と外側が浸透しあう」-つまりは、自分の外にある環境から影響を受けて興味があるものを見つけられるように、自分を「感じやすいメディア」にしておくことが大切なのですね。
自分を分厚い膜で覆って、自分の中にあるものを見つめるだけでなくて、「多孔質」と表現されているように、自分を形作る膜にあちこち穴が開いていて、外の世界と絶えず交渉している状態にするーこの感覚は、ぜひ娘に伝えたいと思いました。

まだ15歳。世の中に何があるかを知らなくて当然ですよね。
進路を迫られるというのをチャンスだと思って、「そうか、こんな世界も、あんな世界もあるのか」と視野を広げていくと、「衝動」に出会う可能性は増えるかもしれません。

親として、娘にしてあげられることは、レールを敷かないことですね。
あとは、いつでも自分の進む道は自分で変えていいんだよ、という身軽さを持つ大切さを伝えることかなぁ。
私はこの本のテーマのように「衝動」を生活に実装して生きていけたらとてもよいなぁと思うので、娘にもまずはそのことを伝えて、自分の「衝動」を大切に扱っていいんだということを教えてあげようと思います。