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『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』小原晩著

私は、いいなぁ!と思う人がオススメする本や映画は一通り触れてみたくなるタチです。
だから、いいなぁ!と思う人がたくさん本を読む人だと大変です。

私がいいなぁ!と思う3本の指に入る人に、ピースの又吉さんがいます。
私は彼の書くものや話し方、考え方、笑い、不器用なところも全部好きです。
そんな彼がYouTube「渦」で激オシしていて、本の帯も書いているから、読まないわけにはいかなくて、本屋さんに買いに行き、その後カフェで一気読みしてしまったのが、この本です。

自費出版で最初は200冊くらい作ってみたら、どんどん売れて、ついには1万冊突破して、商業出版になったという伝説のエッセイ集なのだそう。
又吉さんも言ってたけど、もうタイトルからして、絶対面白いやつですよね。

彼女のエッセイは、吹き出すような面白さではなく、きゅーんと、いいなぁ!と思うような面白さ。
若者が不器用に、でも楽しそうに生きている様子を描いている文章は、きらきらしていてまぶしい。
きらきら、という言葉はちょっと違うか・・・
香ばしい、というのかなぁ。とにかく羨ましい。

高校を出て、美容師として働きはじめた小原さんは、給料日まであと1週間を残して、お財布に200円しかない。でも、デイリーヤマザキで新発売のアイスをつい買ってしまい、

食べてみるが、うーん。可もなく不可もなし。つまらないアイスだ。つまらないアイスを食べて、私の財布は、お察しの通り空っぽである。(P12 渋谷寮の初夏)

そこから1週間、先輩たちに恵んでもらって何とか生きながらえる様子の描写が、またなんとも魅力的なのです。

若い時期の、こういうめちゃくちゃな体験って、本当に美しい。

社会人2年目までは実家通い、転勤になってからも月2400円負担するだけでよい寮に住まわせてもらった私は、給料日まであといくらしかない、なんて生活はしたことがなく。
いやこれは私の性格もあるのでしょうけれど、若いころから無茶をしなかった。

一人暮らしをしていた頃も、眠れないからと夜中に散歩に出ることもなかったし、ミッドナイトショーを歩いて見に行くこともなかった。そもそも、眠れないような不規則な暮らしをした記憶が、ほとんどない。

彼女の文章を読んでいると、私はなんてつまらない20代を送ってたんだろう!って思うくらい。
それくらい、特別な場所に出かけているわけでもないのに、魅力的な日々なのです。
結局は、作者の感じ方、まなざしが魅力的、なんですよね。

この本は、高校生の娘に「若い頃の過ごし方」の教科書として渡そうかな。

エッセイに登場する友だちや恋人たちもまたキュートで。
そういうまなざしで人を見ることができる小原さんのことを、私はいっぺんで好きになりました。

もっともっとこの人の書く文章を読んでみたい、と思える方に出会ったときは、幸せな気持ちになりますね。
いいエッセイ集でした。